レポート提出日 | : | 2002年8月18日 |
実験日 | : | 2002年1月1日 |
レポート作成者 | : | 南海の想人 |
1917年、この国全土を致死性の非常に高い伝染性の疫病が襲った。
毎日、国中で多くの人が死んだ。村々から聞こえる泣き声は絶えることはなく、墓地へ続く埋葬の行列は途切れることがなかった。
しかし、この国で海を隔てた一つの離島と、この村だけがその期間、奇跡的に一人の死者も出すことなく病の時を乗り越えた。
このため、その地割れは川となり、N湾に流れ込んでいる。現在S湾へは地割れの跡を残すのみである。
こうして、今でも村の到る所には巨石が点在し、この山の何処かに、ラマスィカウが作った石舟が眠っているという。
亜熱帯の森は、まるでそこだけ太古の大気を留めているかのように、ねっとりと肌に絡みついた。
今にも消えそうになる獣道を、老人の話を頼りに進む。
どこかで「ホウ、ホホウ」と得体の知れない声がし、ガサガサと森の割れる音がする。
この国にサルが居たっけ?、そんなことを思いながら、倒木を越え、泥濘を渡った。
誰かに見られているような、妙な感じと、なぜか頭がちりちり痛んだ。
どれくらい歩いたろう、ある自然の広場のような所で、僕は足を止めた。
そこで、ぱったり、とその獣道は途切れていた。
僕は、引き返さざるを得なかった…。
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僕は再び森に足を踏み入れた。
森の中を裸足の彼らは縫うように歩く。山歩きに慣れている僕でも付いて行くのがやっとだ。
が、突然彼らは立ち止まった。
僕が「早く進めよ。と急かすと、彼らはココがそうだという。
どこにも船なんか見えない。あるのはこんもりとした小山だけだ。
「どこやねん?!」と僕が聞くと、彼らはその小山の草を取り払い、周りの木を引き倒し始めた。
そのパワフルさに圧倒されるうちに、やがてソレは僕たちの前にその姿を現わした。
とても人間の力で運べそうもない、ましてや水に浮きなど絶対しないその『船』は、言い知れぬ雰囲気を醸し出していた。
どれくらい昔からあるんだ?、と僕が聞くと、彼らは首をかしげて何千年も昔じゃないか?、と顔を見合わせてつぶやいた。
おそらく、僕はここの到達した初めての日本人だったろう。
しかし、感慨に酔いしれる余裕はなかった。
これを飲んでいると病気をしないんだ、と彼らは誇らしげに言う。
キリスト教伝来後、古代神信仰は邪教、悪魔信仰とされタブー化していった。しかし、現在にいたっても、密かに御神体を崇めたり、小動物を生贄に捧げている集団がいるというのだった。
「ラマスィカウには、ほかにも支配する村があり、そこには秘密の言葉、その村にだけ伝わる言葉がある。また、彼には妻が居り、その女神はソロモンを支配する強い魔女だった。だから、我々はその限られた村と、ソロモン島とは、シェイクハンドなんだ。」
事の真相は、まさに神のみぞ知る、だ。だが、今もなお、村には巨石が群れをなし、川はとうとうとN湾に注ぎ、神々の石舟は山の中で静かに眠り続けている…。
長い時間の間に何時しか石舟は大顎山蟻(仮)の住処となっていたようで、巣を壊された彼らは、僕らに襲い掛かってきたのだった。
彼らは、赤黒いツヤっぽい体と、非常に発達した牙を持っており、噛み鳴らす音が警戒音として耳に届くくらいである。しかも今回噛まれて始めて分かったが、どうやら軽い毒も持っているようだ。
只でさえ痛いのが持続するのだ。そんなのが、カチカチ警戒音を鳴らしながらワラワラと足を這い上がってくる。
たまらず、「いて!いたた!!いったあああぁぁ!!!。」と叫ぶと彼らは笑ってビールを飲み始めた。
体に既に毒に対する耐性が出来ているのだろうか?。僕は自分が文明人であることをはじめて知らされる想いだった。
彼らを急かし、何とか森を抜け出す。
伝説の石舟に腰をおろすローカル
僕があまり痛そうにしていると、彼らは山辺の湧き水に案内してくれた。
僕は、村の記念碑を思い出し、彼らに聞いてみた。するとやはりこの水はあの石舟の方から湧いてくるのだと彼らは信じていた。
『神に護られし村』か…あながち出鱈目ではないのかもしれないな、ふとそんな気がした。
彼曰く、未だにこの国には古代神信仰が息づいており、それに伴うブラックマジック(黒魔術)が固く信じられている。
彼らは表向きは教会の信徒であるが、裏では同じ古代神を崇める各地の隠れ信奉者集団と交流しているのだという。
中でも有名なのは『海の神:大鮫神』信仰等で、『ラマスィカウ信仰』もそのひとつにあたるという。
僕は笑ってしまった、すると彼は真顔で心配し、あまり嗅ぎ回らない様に忠告した。彼は本気でそれらの組織の使うという黒魔術を恐れている様だった。
僕にはそんな組織があるとはとても信じられなかったが、村の老人の言葉が頭をよぎった。
しかし、いまだに、現在のこの国には古代神を密かに崇める集団があるのは確かな様だ。
しかし、僕の想像するラマスィカウはそんな、おどろおどろしい黒魔術信仰には繋がらない。
舳先には磨耗したような突起が並ぶ
ひょっとして、彼は奥さんに会いに行くために船を作ったんじゃないだろうか、その不器用な船を、ヒステリックな女神たちに壊されてしまい、慌てて山に逃げ込む気のいい大男を想い、つい楽しい気分になってしまう。
そんなロマンと冒険がいまだに生きて語り掛けてくるこの島は、ある意味本当の秘境なのかも知れない。
当たり前の日常、いつもの生活の中にも、きっと不思議は眠っていて、発見される日を待っているはず・・・。
『当たり前』で頭にフタをする前に『実験』してみるのもいいかもね。って感じかな・・・。
実験するのはいいけど、私は汚水をかぶるかどうか迷ったり、死を覚悟して船に乗ったりするよか、日本で暮らす生活の方を選びたいんですが‥‥。
by 神楽坂博 |
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