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投稿実験レポートNo.211-3
嵐の海を超おんぼろ船で超えてみよう!



投稿文章

●始めに
  1. 私の住む太平洋に浮かぶ島々での物語(体験談)です。
  2. 椰子の木を切り開いただけの広場にしか見えない飛行場も一応あるのです。
  3. が、懐具合&数ヶ月前、滑走路をオーバランして見事に海に突っ込んで見せたその実力とを考慮した結果飛行機利用は却下。船旅を選びました。
  4. その日はちょっとした連休明けで、帰省客のラッシュでした。
  5. いつも同様ノンフィクションでお届けしています


●動機
  1. 仕事が待っていた事
  2. 財布が軽かった事
 よって、必然


●今思うと必要だったもの
  1. 国籍のわからない中古のオンボロ船
  2. 長い航海を共にする戦友たち(愛すべき現地の方々)
  3. ちょっと人より丈夫な三半規管と小脳
  4. 洒落抜きでどこでも寝れる能力


●港にて
 その日は、所用で首都のある島まで昇り、月曜からの仕事に間に合うように、土曜の夜の船に乗ろうと、船着場へと向かいました。
 なぜ日曜ではなく土曜の船かというと、私の住む島が少々遠いことと、どうしょうもなく船足が遅いため、12時間以上の船旅を満喫できるスペシャルコースであったからです。
 その日はやたら風と波がきつく、船は港に停泊している状態から、震度3ぐらいの勢いで揺れていました。
 みんな口々に「TSUNAMI が来るらしい!、TSUNAMI!」と騒いでいます。
 そのとき私は始めて、津波は英語でも津波と言うんだという事実(でもどうやら高波くらいのニュアンスらしい)と、自分がとんでもない航海に出ようとしているという新しい二つの事実を知ることができたのでした。


●船出
 この船は現地語で『女神(or女王)』の名を冠する、この国随一の長距離船なのです。
 が、その船内はとても女神の腹の中とは思えない貧相っぷりで、一応あるシートも無理やり後付したのがばればれで、まったく違う種類の椅子が平気な顔で並んでいます。
 理想が高いのはいいのですが、明らかに名前負けしています。

 私がこの船に乗るのは初めてでは無いのですが、いつもと違うことが3つありました。

  1. かなり厳しいと予測される天候(噂では津波にぶつかる)。
  2. 明らかにシートの数の2倍以上は居る帰省客の皆様(明らかに定員オーバー丸出しです)
  3. いつもは空いているスペースに山のように積んである救命胴衣

 ・・・・・・・・・・・・ちょっと待て!!!!
 全力で突っ込みたくなりました
 特に3.!!
 おいおい女神よ!、いったい私たちの未来に何を予言しようと言うのですか?

 私は激しい後悔の念を感じまくったのですが、そんな僕の思いとは裏腹に、ゆっくりと『女神』は嵐の海への航海を開始したのでした。
 もっとも、そんなことを気にしているのはまるで私だけであるかの様に、現地の皆様はいつものようにトイレの前や、甲板で『ヤンゴナ』という名の伝統飲料(アルコールではないが飲むと気持ちよくなれます・・・ちなみにEC諸国では輸入禁止)を囲み、そこら中で宴会をおっぱじめられました。
 まさに嵐の予感全開の船出です。


●船内
 私もとりあえず落ち着き場所を探すのですが、超過密の船内。とても空きシートなんてありません。
 困ってキョロキョロしていると、どうやら私の患者さんらしいおじさんが、私を呼んでくれました。
「想人!、ここでよかったら寝るかい?」
 なんていい人なんでしょう。普段まじめに働いていてよかった・・・ありがとうおじさん。そう想い、近づいていくと・・・おじさんもキツキツの状況です。
 で・・・私の席は・・・とキョロキョロしていると、おじさんが、やさしく自分の足元を指差しています。
「えっ、それって床のことですか?」
 その問いに、おじさん、優しく頷く。
犬のように丸まって足元で寝ろと、そう言われる訳ですか?」(一瞬の葛藤)

 ・・・・・・・余裕です。
 私も、この国に来てすぐなら丁寧にお断りしたでしょうが、今はもう大喜びでその0.5uのスペースに体を押し込んで丸まりました。
 いや、それくらい混んでいたのです。
 決して私が人としてのプライドを捨てたわけではないのです。
 私はとにかく、寝れる場所が確保できただけで大満足で、いつしか深い眠りに引き込まれていきました。


●嵐
 ちょうどこの航海を決行した時期は雨期から乾期へと変わりつつあるころで、ちょっと天候もご機嫌斜めでした。
 熱帯海洋性気候の嵐は、ハリケーンクラスでなくてもなかなか面白いものがあります。そう、いわば洗濯機の中に一晩中いるみたいな感じ・・・とでも言い得ましょうか・・・。
 以前も、15人ほどが乗った連絡船が嵐で沈没、自力で泳ぎ着いた3人を除く多くの人は、二度と大地を踏みしめることはありませんでした。。。
 もちろん、このあたりは3mクラスの鮫がウヨウヨいますから、3人が沖から泳ぎつけたこと自体奇跡のように報道されていましたけれども・・・。

 まぁ、私はありがたいことにのび太と張り合えるほど寝ることだけは得意です。
 当時僕はそんな事を知ろうともせずに、グーグー寝ていました。
 私は一度眠るとほとんど起きる事がありません(まるで眠り姫のようですね)
 しかし、その私が、夜半目がさめてしまったのです。
 原因はあちらこちらから聞こえてくるアザラシの大合唱のような声また声・・・(謎。
 寝ぼけて頭を起こすとすかさずオッちゃんに蹴られます。何とかその場で身をよじり、立ち上がると、とんでもない光景が繰り広げられていました


●嵐の船内
 まず、立ち上がった瞬間に、自分が真っ直ぐは立っていられない揺れに気がつきました。

 この感覚・・・・・
 そうか!遊園地の『バイキング』にそっくりだー。
 とのんきに思ったのも束の間、すごい落下感が襲います。
 絶対この船、今一瞬空を飛んでました。

 次に気がついたのは、船内の異様な空気です。
 夜半から大雨の中に無謀にも突っ込んだらしく、おとなしく甲板で寝ていた人達までが、ただでさえ狭い船内になだれ込み、パニック状態です。
 通路を埋め尽くし重なり合って寝る人の群れ。まさに人間パズルです。
 そんな中、いまだアザラシの声があちこちから聞こえてきます。
 おかしい、私は寝ぼけてはいないはず・・・、と耳を澄ますと・・・

「おおおうぅぅぅ!!あヴぇぇぇぇうっぅぅぅぅ!!」
「ヴぉぅっ!!!!えばぇぉぉ、、、あぼぉぉぉぉぇ!!!」
「あげぁぁ!えれぇぇぇぇ!!!」
(以下自主規制・・・)

 あちこちから個性的な声が鳴り響いています。
 そして船内のこの酸っぱいよどんだ空気・・・・
 そうです。
 お好み焼きです。
 この南の海の嵐の中で、アザラシさん達は身動きもできないまま、日本の心、大量のお好み実演販売を行っていたのです(壊。

 どこかで子供が泣いています。
 お年寄りがうめく声、乾いたセキの音が、異様な熱気の狭い船内に響きます。
 そして、大量の雨漏り。
 漏る、というより流れ込んでくると言った方が良いのか、一部では滝のようです。
 ホントに沈む勢いです、この船・・・

 薄暗い船内は、まるで十派一からげの奴隷達を運ぶガレー船のようでもありました。
 僕も医療従事者の端くれ、何とか助けれるものなら助けたいのですが・・・・結果、移動不可能であることが判明。
 竹馬に乗っても足の踏み場がありません。まぁこの激揺れの船の中竹馬に乗る馬鹿がいたらある意味すごいですが・・・。

・・・・・・思考分析中・・・・・・

 うん、仕方ない。
 寝よう
 まぁ船酔いでは死ぬことは無いでしょうし、船が沈めば確実にみんな死にます。
 じゃぁ、デッドorアライブの観点から見ればみな平等だね。
 われながら見事な自己正当化能力を発揮して、再びオッさんの座席の下に身を沈めました。


●夜明け
 どんな長い夜にも夜明けはくるものです。
 私の夜明けは頭上のオッさんの蹴りによって訪れました。

「イテ!!・・・・・あ・・・生きてる。」

 こんなにありがたい目ざめはこの25年間なかったように思います。
 だって、まだ海の藻屑もしくはサメの餌に成ってないんですから・・・。
 見わたすとみんな死人のようないい表情をしています。

 どうやら嵐の海を何とか通り抜けたらしく、窓からはウソのような明るい光が差し込んでいます。
 しかし、ここはあまりに空気が悪い。
 外に出始めた人たちに習って、僕も人を踏みつつ、甲板に出ることにしました。
 しかしそこには、見事なお好み村が展開され、足の踏み場もない有様です。
 中には、歩きながら、甲板を横切り何とか海まで・・・・・
 あぁでも、残念、もたなかったのね、って言うのがありありの細長―いお好みや、昨日食べたのがニンジンだったのか、血を吐くまで吐いたのか赤い・・・・(以下自主規制)

 しかし、みなの顔は疲れきってはいますが、共に悪夢の嵐を乗り越えた、というなんだか分からない熱い絆に満ち満ちていて、私もなんだか色んな人に肩を打れたりしました。
 のんきに寝ていたのでそのテンションにはついていけず、ちょっと寂しかったりもしましたが、皆の良い笑顔と朝日が素晴らしかったので、とりあえず幸せな気持ちになりました。
 そんな僕らの傍を野生のイルカの群れが泳いでいきました。


●嵐の海を越えて
 今回の船旅を終えて、得たもの。
  1. 命のありがたさ
  2. さらなる適応能力
  3. 丈夫に産んでくれた両親への感謝の心
  4. 現地の人たちとの友情

失ったかもしれないもの

  1. 都会人としての自負
  2. 人間的および職業的プライド


●結果
 それでも、生きてるってすばらしい!!


管理者の意見,感想

 0.5u、71cm四方のところの雑魚寝‥‥。
 だったら、盆や正月前のムーンライトながら号(夜中に、東京〜大垣館を走る普通列車。青春18きっぷを使う人に大人気で、いつも超コミコミ)で私がよく味わってるのよりはマシかも‥‥。
 アレの場合、6〜7時間ずーっとラッシュで立ちっぱなしって事もたまにあるから‥‥。
 日本の貧乏人って結構凄い!

by 神楽坂博


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